浪速区医師会 七十年の歩み

薬が不妊症の治療として海外で試されて、成果を上げつつありました。日本では認可は認め られていませんでしたが、大阪大学の産婦人科の青野講師(後の徳島大学学長)がこの分野 で日本をリードしていました。そこで、内分泌内科(糖尿病)の研究よりも、「乳汁漏出・ 無月経症候群」の研究をしたいと思い、大学院は産婦人科の青野講師に指導を受けることに 決めました。 大学院では、まずプロラクチンが関与する病気に関する臨床研究に取り組みました。この プロラクチンの研究に携わったことが「セレンディピティ」を引き寄せました。当時多嚢胞 卵巣症候群の排卵誘発には不妊症治療薬のクロミッドが汎用されていました。しかし多嚢胞 卵巣症候群では、次第にクロミッドに反応しなくなることが問題であり、より過激で副作用 の大きい排卵誘発剤の注射剤への移行を余儀なくされる状態でした。そこで、日本ではまだ 臨床応用されていないブロモクリプチン(ドーパミン作動薬)を使い、多嚢胞卵巣症症候群で、 クロミッドでは排卵を起こせない難治性不妊症の治療の可能性に挑みました。その結果、ク ロミッドにブロモクリプチンを併用することで排卵を誘発できることを見出し、新たな治療 法として米国の不妊症関連の雑誌に報告しました。 その後、脳下垂体(内分泌の中枢的臓器)から分泌されるプロラクチンが排卵を止めてし まうのか、そのメカニズムを探る動物実験を始めました。その鍵はなにか?これまでの論文 の報告を参考に、脳下垂体のホルモン分泌をコントロールしている、さらに上位の中枢の視 床下部のドーパミンの動態が鍵を握っていると考えました。そこで、まずその第一歩として、 脳組織からドーパミンを測定する方法を開発し、国際雑誌に報告しました。その後、プロラ クチンとドーパミンの関係、ドーパミンと排卵システムの関係をいくつか論文に報告し、「プ ロラクチンがなぜ月経を止めてしまうのか」その疑問を明らかにし、博士論文として報告し ました。 折しも、大学院卒業の前年度に「日本内分泌学会総会」が大阪で開かれ、大阪大学の産婦 人科がこの学会を開催することになり、招待講演としてロバートマックロード教授が訪日す ることになっていました。マックロード教授はバージニア大学医学部の教授で、ドーパミン が「視床下部から放出されるプロラクチン抑制因子」であることを発見した、この分野の世 界的権威者でした。青野講師は、マックロード教授の接待として奈良見物の案内を私に命じ ました。理由は、ドーパミンとプロラクチンのことに一番精通しているのは私だからという 理由でした。私はマックロード教授の論文は多数読んでいましたし、マックロード教授も私 の論文は読んで下さっており、それぞれの論文を通じて、お互いの研究内容は知っていまし た。 奈良見物の案内をしながら、慣れない英語で、とめどもなく、ドーパミンとプロラクチンの 話をしました。奈良の一日観光の案内から大阪に戻ってきたその夜、青野講師とマックロー 86

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