浪速区医師会 七十年の歩み

私の留学先は米国バージニア州シャーロッツビルにあるバージニア大学です。よく町のカ フェテリアやショッピングセンターで会う、およそ 80 歳を越すと思われる女性達がとても 元気そうで、しかも背骨の曲がっていない人達が、日本の老婦人達に比べてことさら多いこ とに気づき、とても不思議でした。最初は人種の違いかと思っていましたが、ある時、パー ティーの席上で、マックロード教授に尋ねたところ、「それはきっと女性ホルモン補充療法 のためでしょう」と、何の躊躇もせずに、「自明の理」と言わんばかりの即答で返ってきた ことに驚くとともに、なるほどと納得したことを今でも鮮明に覚えています。 当然ながら、アメリカではその頃にはすでに女性ホルモン補充療法がかなり普及し、骨粗鬆 症の予防効果に関する学術的な成果も報告されつつありましたが、その成果を現実の社会の 中で実感したのはその時がはじめてでした。 今からおよそ 60 年前に女性ホルモン、エストロゲンは「女性の若返りの魔法の薬」とし て世界中の女性に期待をもって迎えられました。ところが 1975 年頃から「エストロゲンを 内服すると子宮体癌になりやすい」とのショッキングな報告が相次いでなされ、女性にとっ て夢膨らむエストロゲンへの期待が無残にも裏切られてしまいました。そしてエストロゲン 療法はそのまま闇の世界に封じこめられてしまったのです。その後、多くの研究者の勇敢な 挑戦により、1982 年にはエストロゲンと黄体ホルモンを併用すれば、ホルモン補充療法に より、逆に「子宮癌が半減する」ことが報告されました。この予防効果は、その後の多くの 施設からの報告で確認されました。さらにエストロゲンが「女性としての若返り」以外に骨 粗鬆症を予防し骨粗鬆症による「骨折率を半減する」報告や、コレステロールを下げ、動脈 硬化症を予防して、「心筋梗塞や狭心症の危険率を半減する」報告が相次いでなされました。 こうした研究報告の結果、再びこの「魔法の薬、エストロゲン」は治療の表舞台へと登場し てきたのです。そして、現在も「女性ホルモン」に関する神秘のベールは次々と剥がされ、 女性ホルモンの知られざる、「全身にわたる若返り作用」が明らかにされてきています。例 えば、「女性ホルモン補充療法」がうつ状態を改善させ、脳の血流を増やし、アルツハイマー の発症を予防し、総入れ歯になる率を防ぎ、大腸癌、胃がん、肺がん、食道がん等を予防し、 女性の寿命を延ばす、といった成績などです。こうしためざましい更年期医学の研究成果に 支えられ、また「治療医学から予防医学へ」の合言葉とともに、現在欧米では 3 人に1人が ホルモン補充療法をする程度にまで、普及しています。一方、日本はこの面で立ち後れ、普 及率もせいぜい2~3%前後です。 もちろん、こうした「ホルモン療法の多くの効用と、それに比べてあまりにも低い日本で の普及率」に関してマスコミも注目し、ここ数年のあいだにテレビや雑誌などを中心に、更 年期障害に関わる話題としてホルモン療法は取り上げられてきました。こうしたマスコミの 働きかけもあって、日本女性の間でも徐々にホルモン療法に対する関心も高まってきていま 91

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